産学連携レポート 第1号 ~東京東信用金庫事例紹介~
2010-12-28
専門家に相談したい経営課題、何でもござれ!!
~中小企業に相応しい産学連携とは~
文責: 社団法人 全国信用金庫協会
協働事業部
~東京東信用金庫~
墨田区は、歴史と伝統が育んだ江戸情緒と、下町の温かいやさしさが溢れているまちだ。
そんな墨田区に本店がある東京東信用金庫(以降、「ひがしん」という。)は、『お客様第一の姿勢』で、下町らしい「あたたかみ」、「おもいやり」、「人情味」といった人と人との繋がりを大切にしながら、地域社会・経済の活性化に取り組んでいる。
信用金庫の原点に返った取り組み
近年、地域では地殻変動ともいうべき、劇的な環境変化が起きている。生産機能のアジアへの移転による産業の空洞化、モータリゼーションの進展に伴う商店街の衰退、少子高齢化に伴う介護の問題、地域行政の財政悪化......。言い出せばキリがない状況だ。
ひがしんの営業エリアにおいても例外ではない。10年前には賑わいをみせていた商店街の衰退や工場の閉鎖も目に付くようになっている。そのため、ひがしんでは地域の活性化に役立つさまざまな活動をしている。例えば、経済産業省より受託した「中小企業応援センター事業」である。これは、ひがしんがこれまで培ってきた大学、行政、さらには商工会議所等との強いネットワークを活かし、中小企業の経営上の課題解決に積極的に取り組むものである。具体的には、新事業展開や事業承継等について、数多くの相談案件が寄せられているが、ひがしんはその課題解決に意欲的に取り組んでいる。
そんなひがしんにとって、産業界と教育研究機関(大学等)が協力することで、地域経済・社会の発展を目指す産学連携業務を積極展開するのは、ごく自然の流れであった。ひがしんの認識は、世の中全般が産学連携を必要だと言っているから、時流に乗ってとりあえず取り組むといったものではない。むしろ、「信用金庫のミッションは地域を元気にすることで、産学連携はそれに役立つからこそ取り組む」という積極的な捉え方だ。これこそがひがしんの想いなのだ。
「想い」を共感できる3大学との協定締結
「形だけ作ってもしょうがないですからね。地域の皆様が喜んで活用してくれるものにしないと」、「そのためには、ともに汗をかき地域に貢献することを喜びとする教育研究機関でないと」。
こうした想いのもと行動したひがしんは、現在も引き続き密な関係にある東京海洋大学(平成17年10月に協定締結)、芝浦工業大学(20年12月)、千葉商科大学(21年7月)と協定を締結するに至った。これらはいずれもひがしんの想いに共感する大学である。
この3大学は、それぞれ得意分野が異なる。東京海洋大学は水産・海運、芝浦工業大学は工業技術、千葉商科大学は商業分野が強みだ。「教育研究機関と一言にいってもそれぞれ強みがあります。その一方で、相談案件の内容は多様です」、「だからこそ3大学と締結しているのです」とするひがしんからは強い地域愛を感じた。
中小企業への周知活動、どうやって伝えるか......。
一般に中小企業は、新製品開発や新事業展開をする場合には、自前主義にこだわる傾向があり、大学等の外部機関を活用する意識が低いとされている。中小企業の認識がこうでは、どんな教育研究機関をパートナーとしても、産学連携を上手くやっていくことはできない。
ひがしんではこうした状況を改善するために、さまざまな取り組みをしている。例えば、取引先向けセミナー等では、産学連携が如何に有意義かをひがしんの職員が説明しているし、連携の窓口を務める大学の担当者や実際に研究を行っている大学教授に講師を依頼したりしている。また、自らの取引先が加盟するビジネスクラブ「オーロラ会」の会員を対象に、大学施設の見学や研究者との意見交換等の場を頻繁に設けている。「こうした地道な活動を行うことで、少しでも中小企業に大学等を身近に感じていただければ」との想いからだ。
加えて、中小企業の場合は、産学連携以前に自社の課題に気づいていないところが多い。あるいは、経営者にアイデアがあったとしても、事業計画としてきちんと表現することが不得手なため、それをそのまま教育研究機関に相談案件として持ち込んでも、適切な協力を得ることができないケースが多いという。
「だからこそ、取引先と直接の接点を持つ営業係の理解が不可欠なのです」、「また、営業係が如何に中小企業をサポートするかが極めて重要となります」との認識のもと、ひがしんでは営業係の産学連携業務に関する取り組みを大いに奨励している。また、営業係のスキル・ノウハウが一定水準に高まるまで、「マッチング支援」研修を開催し、営業係のレベルアップを行ってきた。
教育研究機関との共同研究だけが産学連携??否!!
こうした取り組みをすることで、産学連携業務を積極化しているひがしんであるが、その取り組み実績はどうであろうか。
まず、ひがしんが窓口となり受付けた相談案件は、21年度の営業係だけでも700件超である。産学連携業務が本格化する以前と比べると、その件数は大幅増だ。
それでは一般に、「産学連携の成功」と言われる産学による共同研究、この橋渡しをした結果、共同研究に結びついた案件についてはどうか。この件数はあまり多くはないとのことだ。
やはり、中小企業の場合、ヒト・モノ・カネに代表される経営資源が不足している。そのため、教育研究機関と共同研究するほどの高度なイノベーションを伴う技術革新や商品開発を行うのは難しいのであろう。また、社会文科系学部出身者が多い信用金庫の職員にとっては、技術評価を要する先進的で新規性のあるもの、既存の応用であっても高い専門性を有するもの、これらに対応するのは難しいのであろう。
それではひがしんの産学連携業務は上手くいっていないのか。それに対するひがしんの回答はこうだ。「我々は産学の橋渡しを着実にこなしていると思っています」、「中小企業と教育研究機関の産学連携の場合、共同研究を成功と捉えたら、それこそ何もできません」。
「ひがしん」に相談すれば何かがある!!
それでは、ひがしんの「成功」の定義とは何か。それに対する回答は、「地域の中小企業の経営課題の解決に少しでも役に立ち、相談しにきた方に喜んでもらう」ということである。
ひがしんでは、自らが窓口となり受付けた相談については、産学の共同研究に至らなかった場合でも、必ず何らかの対応をする方針としている。具体的には、ひがしんの職員がインターネット検索や商工会議所等へのヒアリング等で得た情報を提供する、さらにはひがしんから連絡を受けた大学の教授が、相談者に直接電話し何らかのアドバイスを行う等だ。
こうした取り組みに対する中小企業の経営者の反応は良好である。中小企業の経営者は経営上の悩みを持っていても、社内に相談相手がいないため孤独であるという。だからこそ、ひがしんに悩みを相談できるというだけでも意味があるし、ましてや経営課題を解決するのに役立つ情報がもらえるとなれば、地域におけるひがしんの存在価値について、これまで以上に有難く思うのは当然のことであろう。
「ひがしんに相談すれば何かがある。地域の皆さんにそう思っていただけるよう、今後とも頑張りたいです」。このような想いのもと地域貢献活動に邁進するひがしん、今後の更なるチャレンジに注目していきたい。
教育研究機関のパートナー、東京海洋大学の想い
「もはや大学等教育研究機関は講義や研究だけを行うだけではやっていけません。産学連携等に積極的に取り組み、地域社会から必要とされる存在にならないと」。
こうした想いを持つ東京海洋大学であるが、産学連携のパートナーの1つとしてひがしんを選んだ理由については、「連携の第1歩としての入り口で言えば、信用金庫はフェイス・トゥ・フェイスで地域の声を吸い上げることができる数少ない機関だから」であり、「連携の出口としては、共同研究などで得られた成果を事業化に持って行くところが重要で、必ず経営・営業・資金調達等で金融機関の支援が必要になる」としている。
今後とも東京海洋大学は、知財の創出による技術と産業の進展だけではなく、地域社会の活性化にも貢献していく意向だ。だからこそ、ひがしんに対し、「今後ともパートナーとして協力していきたい」、「これまで以上に産学連携の中核として活躍して欲しい」と大きな期待を寄せているのだ。

