産学連携レポート 第2号 ~巣鴨信用金庫事例紹介~
2011-01-25
教育機関の「宝」は技術シーズのみにあらず!!
~社会科学系大学院との連携で、お取引先様の更なる飛躍を目指す~
文責: 社団法人 全国信用金庫協会
協働事業部
平成22年12月10日、立教大学池袋キャンパスにてシンポジウムが開催された。このシンポジウムは、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科(以降、「同研究科」という。)と巣鴨信用金庫(以降、「すがも」という。)が、協働で取り組んできた「派遣型ビジネスクリエーター養成プログラム(派遣型)(以降、「同プログラム」という。)」を振り返り、同プログラムがパートナー企業に与えた影響や、院生に対する教育効果を検証するものだ。
壇上には、同研究科やすがもの関係者はもとより、同プログラムの派遣先の中小企業(以降、「パートナー企業」という。)の経営者もいた。どの経営者も、「大変勉強になった」、「今後、どのような戦略のもと業務運営すべきかがわかった」等の感謝の気持ちを述べ、その顔は未来への希望と自信で満ち溢れていた。
ちなみに、同研究科は、事業構想を担う創造的人材の育成を目指す社会人向けのビジネススクール型大学院(経営学大学院)であり、修了者はMBA(Master of Business Administration)を授与されることとなる。
(平成22年12月10日のシンポジウムの様子)
「喜ばれることに喜びを」をモットーに
すがもの本店は、「とげぬき地蔵」で知られる万頂山高岩寺の入口付近にある。参詣客は圧倒的におばあちゃんが多いことから、「おばあちゃんの原宿」とも呼ばれるエリアでもあるが、参道には休憩所やトイレが不足していた。
「少しでも地域の役に立ちたい」。そんな思いから、すがもは本店1階をトイレとして利用できるよう開放するとともに、3階ホールを「おもてなし処」として開設し、せんべいとお茶で持て成したり、月に1度は若手落語家による演芸会を開催している。
「おもてなし処」の運営は本部職員が当番制で行っているが、そのコストは決して安くはないという。しがしながら、すがもは、「地域の方々に喜んでいただくことは営業基盤の強化にも繋がる」、「職員にお客様を大切に思う気持ちを醸成するよい機会である」と捉え、精力的に取り組んでいるのだ。
この事例からもわかるように、すがもは、自らの地域での役割を預金や貸出といった金融仲介機能のみに限定していない。常にお客様を起点として考える「ホスピタリティ精神」を持ちながら、社会貢献等も含めた広い分野で、地域の活性化に取り組んでいる。
お客様の「本業」でもお役に立ちたい!!
そんなすがもの営業エリアでも、新たな事業展開を描くことができずに苦境に陥る中小企業が存在している。中小企業が地域で果たす役割を考えれば、これらの先に活力を取り戻してもらうことは、極めて重要な課題である。
これに対応するため、すがもとしても様々なチャレンジを行ってきた。例えば、すがもの職員によるコンサルティング等であるが、これまで培ってきた地域・企業の情報や、財務面のスキル・ノウハウをもとに、取引先に役立つ様々な提案をしていくのだ。
すがもとしては、その成果に一定の満足感を得ていたが、その一方で、「コスト削減や不稼働資産の圧縮に役立つ提案が中心で、新事業創出に役立つものが十分ではない」、「これについても何らかの貢献をできないか」との思いを抱えていた。
一般的に、金融機関はコスト削減や不稼働資産の圧縮に役立つ提案は得意だが、事業拡大に資する提案は不得手といわれている。これらは、すがもも同様であったが、すがもとしては、「何としてもこの課題を乗り越えなければならない」と強く感じていた。
ビジネススクール型大学院(ビジネスデザイン研究科)との関係強化
すがもの本店がある豊島区には、立教大学の池袋キャンパスがあるが、すがもでは平成16年度より、豊島区・立教大学とともに、地域企業の経営革新をサポートすることを目的に、「としま公開ビジネス講座」を開催してきた。
こうした金融機関と教育機関とのシンポジウム・セミナー・講座等は、比較的取り組みやすく、その後の連携強化にも繋がりやすいと思われるので、これまで以上に普及することが望まれる。実際、すがもと立教大学においても、「としま公開ビジネス講座」をとおし、より一層の信頼関係を深めることができるようになったという。
こうした中で、すがもは立教大学の同研究科から、これまでにないスキームの提案を受けた。
大学院生と中小企業を繋ぐプログラムの始動
同研究科からの提案は、文部科学省の選定プロジェクト「派遣型高度人材育成共同プラン」に公募し、同プログラムの実施を申請するので、すがもにはそのパートナー金融機関として参加して欲しいというものであった。同プログラムの狙いは、同研究科、すがも、さらにはパートナー企業の三者が人材の育成・活用についての協力体制を構築する。そこで、それぞれが学び合うことを通じて、パートナー企業の新事業を創出し、地域活性化の実現を目指すものである。
なお、同プログラムの取り組み概要は右図のとおりであるが、まず、第1次派遣(コンサルメソッド1)として、同研究科の院生がすがもに出向き職員と連携する。そこで、パートナー企業の財務状況や市場環境等を分析し、新事業の方向性等を検討するが、この段階では企業名を秘匿している。次いで、第2次派遣(コンサルメソッド2)であるが、このステージでは、院生がパートナー企業を訪問し、経営者や幹部の方へのヒアリングや、本社・営業所・工場の現場視察等を行い、新事業を実現するためのビジネスプランを練ることとなる。
すがもとしては、「教育機関の経営理論とすがもの実務ノウハウを融合させたプロジェクトだ」、「これならばお取引先様が新事業創出のヒントを掴んでくれるはず!!」との思いから、同研究科のパートナー金融機関として、同プログラムに参加することとした。
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(「派遣型ビジネスクリエーター養成プログラム(派遣型)」の概要)
スキームを作っただけに終わらない、すがもが期待される役割は「大」
そんなすがもが、同プログラムで果たす役割は大きいものといえる。教育機関と中小企業の努力に「お任せ」といったものではなく、スキームを作った後も積極的に関与している。
具体的なすがもの主な役割としては、取引先の中からパートナー企業となりうる候補先を探し、同研究科とともに決定することがあげられる。また、第1次派遣の際には、中小企業診断士やファイナンシャルプランナーの資格を持つ職員が、地域やパートナー企業の定性情報はもとより、財務分析や資金調達のポイントについて院生に講義する。
「特に新事業創出の場合は、キャッシュの調達や管理が大事です」、「この部分が絵に描いた餅にならぬよう、その道のプロである我々が適切なサポートをするのです」とすがもは考えている。
むろん、これらを担うすがもの職員の業務負担は大きい。それについて、すがもは、「確かにその通りですが、業務運営方法の改善で、より良いやり方を模索できるはずです」、「そんなことよりも、とにかくお客様に喜んでいただき、すがもと取引してよかったと言って欲しいのです」と認識している。
そんなすがもから、熱い「ホスピタリティ精神」を感じた。
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(大学院生に講義をする巣鴨信用金庫)
教育機関のパートナー、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の認識
同研究科以外の教育機関が、文部科学省の選定プロジェクト「派遣型高度人材育成共同プラン」に公募し採択されたものは、工学部等の学生が企業の技術部門へ派遣するものが中心である。やはり、教育機関が社会科学系(経営学)の大学院で、かつ教育カリキュラムや期間等が充実している同プログラムは、ユニークな取り組みということができよう。
同プログラムは大企業ではなく、中小企業をパートナーとするものであるが、中小企業と教育機関が協力し、何らかの研究開発プロジェクトを進める場合には、技術系と社会科学系のどちらの教育機関と産学連携をするのが有効なのだろうか。それに対する同研究科の回答は、「中小企業の場合は、技術系よりも社会科学系の方が適しているのではないでしょうか」というものである。
その理由としては、一般的に中小企業の場合は、経営資源が脆弱でリスク許容度が低い。研究開発費が嵩む技術系の産学連携だと、当該プロジェクトが失敗すると一気に業績が悪化し、再起不能に陥る可能性が高い。その一方で、自社の強みを認識していなかったり、強みを活かす組織体制が構築されていない場合が多い。また、マニュアルや規定等を作成すれば、容易に共有できるスキル・ノウハウも見える化されていないこともある、等があげられる。
なお、同プログラムは、文部科学省の選定プロジェクトとして、これまで補助金を受けて行われてきたが、今年度で取り組み期間が満了する。来年度以降は、民間独自のプロジェクトとして行われることとなるが、同学科としては「今後ともすがもさんの協力を得ながら継続していきたいです」、「ともに地域の発展に貢献していきたいです」との思いを語ってくれた。

