経営の極意-変化こそが安定だ!
~株式会社 玄 代表取締役社長 井出隆夫(いでたかお)氏
2010-06-30
神奈川県平塚市を拠点に、理美容を中心に多角的に事業を展開する、株式会社玄の代表取締役社長である井出さん(53歳)。同社を中核とするライオンファミリーグループの代表でもある。グループ直営店は53、関連企業である株式会社髪剪處(かみきりどころ)(代表取締役社長は同氏)のフランチャイズ店も180を超え、日本だけでなく、海外にまで展開している。しかし、これは、店舗拡大・売上げアップをひたすら目指した結果ではない。「お客様に喜ばれ愛される人づくり店づくり」という経営理念を、井出さんがスタッフと共に追求し、つくり上げてきた結果であり、井出さんとスタッフの"絆(きずな)"そのものなのだ。
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落ち込んだときが伸びるとき
「落ち込んだときが伸びるときです。」この井出さんの言葉は、自身の経験から生まれた真理である。高校卒業後、祖父、父と続いた平塚の理容店を継いだ井出さん。「朝夕はそれなりに忙しかったが、昼間は暇で...。やる気のない不器用な理容師だった。」と当時を振り返る。これといった目標も持たず、1、2年が過ぎた。そんな現状に不安を感じていた頃、理容組合の教育部長が理容技術を競う神奈川県の大会への参加を勧めてくれた。結果は47人中46番目。「ショックでした。お客様が来ないのは店が古くて駐車場がないからだ、と環境のせいにしていましたから。自分の技術不足を痛感しました。」
そこで、レベルアップを図ろうと毎日独学でトレーニングを積んだ。でも翌年も翌々年も入賞すらできなかった。優勝者は有名な先生のスタッフばかり。「自分が入賞できないのは周りによい指導者がいないからだ。」そんなふうに一時は自分の境遇を恨んだ。が、「素直に教えを請いに行けばいいじゃないか。」そう奮起して、横浜や厚木の有名な先生たちのもとを訪ね、そこで先生たちの動作をひたすら真似て技術を学び、自分のものにしていった。こうして"落ち込み"をバネに努力を重ねた結果、井出さんはついに全国大会で優勝。引き続きアジア大会でも勝ち抜き、世界大会に出場した井出さんは総合チャンピオンの座を掴み取った。井出さんが30歳のときだった。すると井出さんのもとに全国から講師依頼が殺到した。各地の講習会で親御さんから子どもを弟子にと託された。店は4店舗に増え、売上げも順調に伸びていった。"技術のチャンピオンから経営のチャンピオンへ"と突き進んだ。若手経営者気どりで、店舗拡大・売上げアップと上ばかり見ていた。
ところが突然トラブルに巻き込まれて全てを失い、一(いち)から出直すことに...。会社も家族もバラバラになってもおかしくないはずなのに、逆にスタッフや家族が一致団結して井出さんを支えてくれた。お客様も応援してくれた。「みんなを支えているつもりでいたが、自分が支えられていたことに気がつきました。」その時の感謝の気持ちは生涯忘れることはない。これからはスタッフの幸せを一番に考える本当の経営者になろう。そう心に誓った。この時の大きな"落ち込み"がその後の大きな飛躍に繋がっていく。シンプルだが深い想いが詰まっている、「お客様に喜ばれ愛される人づくり店づくり」という経営理念が生まれたのもこの時だ。
人が育ったから店がある
井出さんの人づくりは徹底している。平塚市内にある社員寮には、高校を卒業して理美容師を目指す80人の若者が暮らしている。育ってきた背景は様々だが、寮に入ってきたばかりの若者に共通しているのは、褒められた経験が少なく、自分に自信が持てないというところ。「彼らに自信を持ってほしい。」と井出さんは語る。「他の人と比較して評価してはだめ。人によって技術を習得する時間は違いますが、必ずできるようになる。だから、今の成長を認め、褒めてあげること。これが大切です。」
理美容師を目指したものの途中で辞めてしまう若者も少なくない。そんな時、井出さんは理由を聞く。閉店後の夜の練習が辛いという声があった。その声にシンプルに応えるのが井出さん流。働きながら学べる企業内訓練校「湘南ヘアスタイリスト学院」を設立した。経済的に苦しい家庭の若者もいる。そんな彼らでも資格が取れるようにと、リーズナブルな価格で学べる専門学校「湘南ビューティーカレッジ」も開校した。
同校の校長でもある井出さんは、「仕事とは、お客様の役に立ち、喜ばれ愛されること」というシンプルな考え方を徹底して教えているという。若者たちの自立のためだ。技術だけを身につけても、何のために仕事をするのかという考え方が身につかないと、自立した行動をとることができない。「仕事とは、お客様の役に立ち、喜ばれ愛されること」という考え方を身につけることで、仕事を大変と感じることよりも、楽しいと感じることの方が多くなる。途中で投げ出すこともなくなるからだ。
また、「好きな場所で好きな仕事をするのが一番。」と考える井出さんは、スタッフが活躍できる場、選択肢をたくさんつくってきた。これも、スタッフの声を聞いて、そのニーズにシンプルに対応した結果である。スタッフの個性にあった理美容店。ネイルやエステなどの新たな業種の店。海外で働きたいというスタッフの声を受け、台北にも店をオープンした。結婚して家庭に入った人たちのために9時から17時までの短時間営業で日曜定休という店もつくった。「今年はスタッフの出産ラッシュだったので、今度は託児所かな」と我が子が生まれたように嬉しそうに話す井出さん。「人が育ったから店があるんです。」
そして、井出さんの会社は30歳が定年。定年を節目に、幹部や指導者として会社に残る者と独立する者に分かれる。スタッフの将来を親のように大切に思う井出さんは、既に30名の独立を支援している。もちろん独立後も、これまでの絆は残る。ライオンファミリーグループ全体が一つの家族だからだ。
"生涯顧客" の店づくり
"出来ない理由を言わない・考えない"、"予測を上回る結果を出す"、"頼まれごとは試されごと"。これらは井出さんがスタッフに伝えている仕事の心構えであるが、井出さん自身の取り組み姿勢でもある。この姿勢が、"人材育成"と並ぶ事業のもう一つの柱、"生涯顧客"の店づくりにも遺憾なく発揮されている。ここでも大事なのは、お客様の声に応える、という姿勢だ。
結婚して財布の紐が固くなった方でも利用できるように新たに低価格でサービスを提供するお店や夜遅くまで働く男性のために夜中の2時まで開いている店などをもつくった。
高齢になると一人での外出が難しくなるが、家の人に付き添ってもらいながら理美容店にいくのも気が引ける。そのようなお客様の悩みを解決するために始めたのが無料送迎サービスである。また、介護施設などに出向く訪問理美容も始めた。訪問先では、サロンと同じように、鏡を据えてBGMを流し、お一人ずつきちんとお名前で呼びかけてお好みの髪型のオーダーをとる。女性のお客様には最後に口紅を塗って差し上げる。「そうすると、お客様がにっこりされるんです」という井出さんもにっこり微笑む。
変化こそが安定
理容からスタートした井出さんの事業は、美容へ、そしてメイク、ネイルなどのトータルビューティへと広がり、さらにヘッドスパ、エステといった癒しのサービス、送迎や訪問理美容などの"生涯顧客"の考えを反映したサービスへと広がっていった。「穴を掘り続けると穴の入口は広がるでしょ。それと同じ。理容という仕事を掘っていったら必然的に業態が増え、広がっていったということ。」目先のことばかり考えていては、経営はできない。永続するものは、強いものや賢いものではなく、変化するもの。変化こそが安定だ。「2年も3年も同じような仕事をしていてはお客様の支持は得られないということを肝に銘じて、今後とも理容を進化させたい。」井出さんは温かくてまっすぐな瞳で語ってくれた。
平塚信用金庫からのメッセージ
井出さんは地元平塚を常に意識している方。株式会社玄さんには設立当初からお取引いただいております。
「お客様に喜ばれ愛される人づくり店づくり」という経営理念を追求するなかで、人を大切にする熱い心で30歳での自立を促し30名もの独立を支援されるなど、創業支援を地で行く姿に感心しております。
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