みんなが幸せになる。
自然を活かして瀬戸のまちで生きる
~国産小麦・天然酵母のベーグル専門店『Ubuntu(ウブントゥ)』
河合 陽子(かわい ようこ)氏
2011-01-20
名鉄尾張瀬戸駅から歩いて45秒の場所にあるベーグル専門店『Ubuntu』を営む河合陽子さん。2009年1月にご夫婦で創業し、3人の子どもを育てながら、国産小麦・天然酵母など、身体にも環境にも負担をかけない材料を使ったベーグル作りでまちのみなさんからの人気を集めている。そんな河合さんの事業と瀬戸に対する思いとは...?
瀬戸に対する思い
「瀬戸ってあまり山を大事にしていないんです」思ってもみない言葉から始まった。瀬戸物=陶器の町であり、自然や里が豊かなイメージがあったが、河合さんはそうは感じていなかった。土だった道路がアスファルトに舗装されていくのを見て、「今まで土の中にいた虫たちはどうなっちゃうの?」と感じるような子どもだったという。
「いい土があったからこそまちは発展したのに、周りの山を切り崩して産廃を埋めていて。外から見たら木はあっても中には無いんです。どこが山なの?」。そう感じて瀬戸が嫌になった若い頃。瀬戸から出たくて、他の県の山に移住しようと、実際にキャンプをしながら山を探し回っていた。「でもどこの山に行っても産廃が捨てられていて、送電線もある。どこに逃げてもいっしょなんだったら、生まれ育った瀬戸に戻ろう。やっぱりここから始めないと。逃げてはいけないんだ、と思いました」。今ここでこの時を大事にする、そう心に決めている。
やりたいことを実現するために
そんな河合さんが昔からやりたかったのは、自然食品のお店だったという。ご主人が夜勤の仕事をしていたとき、「人間は太陽とともに生活するのが一番自然なのに、夜起きて働いているのはおかしい。そのときじゃあ自然ってなんなんだろう?って」。同じことを考えていたご主人も、仕事をやめ、お店をつくる準備を始めた。
勉強のために、起業支援をしていた"NPO法人起業支援ネット"に通った。1年間みっちり学んだおかげで自信がついたという。「事業計画書を何回も書いて、練って練って練ったものを作りました。頑張りすぎて、私がやらなきゃ誰がやるんだ?っていうくらいまっすぐになっちゃって、しまいには人の意見も聞かなくなっちゃったんです。それで子どもができたらしいんですよ(笑)」。お子さんを授かったのは神様がブレーキをかけてくれたんだと思った。その翌年に、瀬戸市が主催する"せと・しごと塾"に、妊婦にもかかわらず参加。そこでは「仲間とつながりという大切なものをもらいましたね。この2つの学び場があって、今があると思います」
初めてのベーグル作り
妊娠中に「私、ベーグル好きだからちょっと作ってみて」とご主人に話したのがベーグル作りの始まりだった。もちろんご主人は、ベーグルはもちろんパンなどを作ったことはなかったが、図書館で本を借りてきて特訓。それを友達に試食してもらったところ、おいしいからまた作って欲しいと言われ、少しずつ玄関で売るようになった。自然食品屋さんの構想は、ベーグル屋さんに少しずつ変わっていった。その頃、いまもお店を支えてくれている人達=ファンができた。地元の友達を中心に口コミで広がり、オープンするまでの1年で100人の顧客ができた。
「最初は難しいと思っていました。どれだけ売れば生きていけるんだ?って考えて、数字にすると、現実味を帯びてきて、すごく悩んだりしましたね」。でもやるしかない。悩んでもどうしようもない。逃げ道はない。覚悟を決められたのは、正しいことをしていれば、結果はついてくるという思いがあったから。「間違ったことをしていたら問題が起きるけど、自分が信じたことを、信念を持ってまっすぐにやっていたら、それが1番いい。そう思っていたから軸がぶれず、みんな信用してくれたのかもしれません」
みんなが幸せになるベーグル
高校生のときに「子どもは産まない!」と思っていた。「環境がすごく悪い。この先自分の子どもが健康に育っていける環境か?と考えていました。産んだら無責任!って思っていました」。結婚して子どもを授かってから考えが変わった。責任を果たさなきゃいけないと考えるようになった。「自分の子どもだけじゃなくて、小さい虫でも猫でも犬でも川に棲む魚でも、みんなが産まれてきてよかったって思えたら、みんなが幸せになるんじゃないかなって。今もそういう気持ちでベーグルを作っています」
その気持ちがお店の名前の由来にもなっている。"Ubuntu(ウブントゥ)"とは、南アフリカ語で"お陰様で生きています"の意味。アフリカの女性が作る「ウブントゥベア」というフェアトレードのクマのぬいぐるみを買ったのがきっかけで知った言葉である。
河合さんの気持ちは、材料選びにも表れている。「幸せな材料を使って、幸せな気持ちで作れば、食べる人も幸せになってくれる」。そのこだわりの原材料は、国産のもの、できれば有機栽培のもの。輸入品の場合はフェアトレードを選ぶ。
また、いまは動物性の原料は使っていない。「自然にも自分にも無理しないこと。限られた材料でどれだけおいしいものを作るか?というのはちょっと難しいところもありますけどね」と河合さんは笑う。
理想と現実のギャップはないのだろうか?「値段と味、あとは作り方のバランスですよね。いいものを使えばおいしいに決まってるけど、すごく高くなったら、売れなくなっちゃう。ウチは今の価格帯(平均220円)がちょうどいいかな。でも本当は原材料費がほかのパン屋さんと比べてもすごく高いので、利益が薄いんです(笑)。それでみんな心配してくれて、また応援してくれるんですよ」
ありがとうのパワー
「Ubuntu」の店舗は、お母さんが営んでいたお好み焼き屋を、自分で壁を塗ったりしてリフォームしたので、初期投資がほぼゼロでできた。大活躍中のオーブンは、20歳の時に何かのはずみで買ったもの。それを17年たったいまも使っている。「このために買ったんだって、1人で感動してました(笑)」。発酵器も手作りの発砲スチロールにお湯を張ったもので代用。「発酵してるかな?って何回も見たり触ったりして。余計にかわいかったりします」。レジもお母さんから壊れかけを譲り受けたもので、毎日ありがとうと言っていたら半年ぐらい使えたという。
「こういうやり方をして、ありがとうのパワーを知ることができてよかったなって思います。だからいつもベーグルにもオーブンにも何にでも、ありがとうねって言って作っています」。こうした想いを込めて作られたベーグルなのだから、お客様にも愛されるに違いない。
2冊の好きな本
好きな本をあげてもらった。『木を植えた男』と『上杉鷹山(うえすぎようざん)の経営学-危機を乗り切るリーダーの条件』の2冊。『木を植えた男』は、見返りを求めずにただもくもくと木を植えて、荒れ果てた荒野を森にして人々を幸せにした男の話。『上杉鷹山の経営学』は、江戸時代に自ら質素倹約な生活を手本としておこない、米沢藩の財政を立て直し、発展の基礎を築いた上杉鷹山の組織・人間管理についてまとめられた本。
「両方とも読んで、すごい!これだ!って思いました。こうやりたい!これでいいんだ!って思わせてくれた本ですね。」と思いを語る。
夢は、山を買うこと
熊が里に下りてきていることに心を痛める河合さん。「山の守り神と言われている熊が町に出てくるということは、やっぱりなにかよくないんじゃないかと思います。じゃあ私が山をまるごと買って守ってみせる、なんてことを最近よく言っているんです」と河合さんは笑う。言えば叶う、実現する、そして責任が出てくる、それが河合さんの信条だということが伝わってくる。「子どもに手が掛からなくなったら、1日に作るベーグルを180個から250個に増やして、ちょっとずつ機材を揃えたり、引越の準備をしたりしながら、山を買いたいですね。このまちに、陶器だけで人を呼ぶのは限界があるかなと思います。もっとこの土地の環境を活かすほうがいい」。山を買ったら、ハチミツを作りたい、乗馬のインストラクターをやっている弟を呼び戻して乗馬をやらせてあげたい、その馬糞を使って畑をやりたい、自分で作った野菜をベーグルに挟んで販売したい、名古屋から瀬戸までのサイクリングロードを作りたい...と夢は広がる。
「自然を目的に瀬戸に来てもらいたいんです。サイクリングで瀬戸に来て、山で遊んで自然の中で癒されて、最後にベーグルを食べて帰っていくみたいな感じで(笑)。やっぱり目標は大事ですよね。ただベーグルやパンを作って売りたいっていうだけじゃなく、その先に何があるかっていうのが大きいかもしれません」と河合さんは言う。いまでも"せと・しごと塾"の仲間とは、月に1回は集まって、お互いのビジネスについて話を続けている。「人のことを考えながら自分にも活かせるし、お互いに良い関係を瀬戸の仲間とで作っていけたらいいなって思います」
河合さんがの仲間のみなさんと、愛する瀬戸の未来図を今後どう描いていくのか楽しみで仕方ない。
瀬戸信用金庫からのメッセージ
「せと・しごと塾」1期生の河合さんは入塾当時から勉強熱心で、熱い想いを持った女性でした。今ではお店で扱うベーグルパンは国産小麦・天然酵母を使用するといったこだわりが支持され、毎日完売してしまうほどの人気です。今後も「人のつながり」「心のつながり」「命のつながり」を大切にしたいといった創業時の想いを、応援していきたいと思います。









